大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)16027号 判決 1995年6月07日

原告

東洋商事株式会社

右代表者代表取締役

加藤隆一

右訴訟代理人弁護士

芦苅伸幸

星川勇二

被告

住金物産株式会社

右代表者代表取締役

奥田正貫

右訴訟代理人弁護士

荒竹純一

千原曜

久保田理子

清水三七雄

原口健

右荒竹訴訟復代理人弁護士

安田修

被告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

安田修

野中信敬

野間自子

久保田理子

原口博

被告

乙山一男

主文

一  被告甲野太郎は、原告に対し、金四六万八九七〇円及びこれに対する平成四年七月一日以降支払済みに至るまで日歩八銭の割合による金員を支払え。

二  被告乙山一男は、原告に対し、金七〇万七七二八円及びこれに対する平成四年七月一日以降支払済みに至るまで日歩八銭の割合による金員を支払え。

三  原告の被告住金物産株式会社に対する請求ならびに被告甲野太郎及び被告乙山一男に対するその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

五  この判決は、第一及び第二項につき、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告らは、原告に対し、各自金一億四六五八万八七九八円及びこれに対する平成四年七月一日以降支払済みに至るまで日歩八銭の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者である原告が、本件土地の地上権を準共有する被告らに対し、本件土地全体の賃料等の支払いを求めた事案である。

被告らは、右賃料等支払債務は可分債務であり、自らの持分割合を超える分の債務は負担しないと主張する。

一  争いのない事実等(事実の末尾に証拠を記載したものは、その証拠により容易に認められた事実である。)

1  (地上権の設定)

原告は、本件土地を所有しているところ、昭和五八年一〇月二〇日、訴外ライベックス株式会社(旧商号城山産業株式会社。以下「ライベックス」という。)との間において、原告がライベックスのために本件土地について、左記の内容の地上権(以下「本件地上権」という。)を設定する旨の契約を締結した。(本件地上権の具体的な内容について甲一)

期間 昭和五八年一〇月二〇日から昭和九三年一〇月一九日まで

目的 堅固な建物の所有

地代 当該年度(一月から一二月まで)に、本件土地に賦課される公租公課の合計額の八倍の金額

なお、一時的又は臨時に賦課される公租公課が発生したときはその税額を加算した金額をその年度の地代とする。

地代の支払期 毎年一二月末日限り、翌年の一月から一二月までの地代を一括して支払う。

本件土地の公租公課が変動した場合、六月末日の時点で、その差額を調整精算する。

敷金 地代の一か年相当額

地代に増減があった場合は、敷金もこれにしたがって変動後の地代の一か年相当額に至るまで増減するものとし、毎年六月末日の時点で、増減額を精算する。

地上権の処分 本件地上権の全部または一部を譲渡し、あるいは本件土地を転貸する等の行為をなすにあたっては、予め原告にその旨を通知し、かつ当該第三者(この者より更に権利を取得した者を含む)に対し、本契約記載の各条項を周知せしめ、かつこれを遵守させなければならない。

契約の解除 地代の支払を六か月間以上遅滞したとき、その他契約条項に違反したときは、無催告解除ができる。

遅延損害金 日歩八銭

2  (地上権の譲渡)

ライベックスは、昭和六一年一二月ころ、本件土地上に、別紙目録(二)記載の区分所有建物(当初は総戸数二〇五、販売戸数二〇〇、平成四年当時は二一八に区分。以下、建物全体を「本件建物」、区分された部分を「本件区分建物部分」という。)を建築し、本件区分建物部分を本件地上権の割合部分(以下「本件地上権持分」という。)と共に一般に分譲した。

合併による被吸収前の被告イトマン株式会社(以下「イトマン」という。)、被告甲野太郎(以下「被告甲野」という。)及び被告乙山一男(以下「被告乙山」という。以上三名をあわせて「被告ら」ということがある。)は、昭和六三年四月から八月にかけて、右分譲に応じて、それぞれ別紙目録(二)のとおりの本件区分建物部分及び本件地上権持分を取得した。(甲一、乙一、乙五の九頁、乙六・七、丙六の一・二)

3  (地代等)

本件地上権は地代の支払を要するものと定められているところ、その平成四年分の地代のうち、平成三年一二月末日支払分(以下「本件当初地代」という。)が金一億〇七七一万四〇〇〇円、その公租公課の変動に伴う増額支払分(平成四年六月末日支払分。以下「本件増額地代」という。)が金二〇六六万六〇〇〇円(両者の合計金一億二八三八万円)及び右公租公課の変動に伴う敷金の平成四年分の増額分(以下「本件増額敷金」という。)が金二〇六六万六〇〇〇円である。(甲三)

4  (イトマンの合併)

イトマンは、本件訴訟提起後の平成五年六月三〇日、合併により消滅し、その権利義務は合併後に存続する被告住金物産株式会社(以下「被告住金」という。)が承継した。

二  争点

本件の争点は、本件当初地代、本件増額地代及び本件増額敷金の各支払債務(以下、三者をまとめて「本件地代等債務」ということがある。)が不可分債務か可分債務かである。

1  原告の主張

(一) 本件地代等債務の性質上の不可分性

被告らは、本件区分建物部分の他の所有者(以下「本件区分所有者」という。)と共に共同して本件地上権を有している(準共有)から、本件地代等債務は、その性質上不可分債務である。

(二) 不可分性の確認(可分性の特約の不存在)

原告とライベックスとの間において、本件地代等債務を可分債務とする合意がなされたことはない。また、原告は、ライベックスに対し本件地上権を設定した際に、ライベックスが本件建物を区分所有建物として分譲することは知らなかった。

原告は、本件地代等債務について、被告らに対し、その共有持分の割合に従った支払請求をしたことがあるが、これにより不可分債務としての請求権を放棄したものではない。

(三) 内入弁済と充当

原告は、本件区分所有者の一人である訴外株式会社ぱりから、平成四年六月三〇日、右地代として金一八一四万〇三六〇円の支払いを受けたので、内金一五六八万三一五八円を平成四年一月一日から同年六月三〇日までの本件地上権についての地代(本件当初地代の前半期分。平成三年一二月末日支払分)の遅延損害金に、内金二四五万七二〇二円を右地代の一部に充当した。

(四) 結語

よって、原告は、被告ら各自に対し、不可分債務として本件地代等債務計金一億四九〇四万六〇〇〇円から弁済充当金二四五万七二〇二円を控除した後の残金一億四六五八万八七九八円及びこれに対する支払期日後である平成四年七月一日以降支払済みまで日歩八銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告住金の主張

(一) 本件地代等債務の可分性

被告らは、二一八に区分された本件区分所有建物の基礎となる本件地上権を準共有するものであり、そこには親族関係は勿論のこと、何らの面識も信頼関係もないから、本件地代等債務はその性質上可分債務である。

(二) 不可分性の特約の不存在

原告及びライベックスとも、本件地上権設定時に本件地代等債務を不可分債務とする意思はなかった。

したがって、被告住金の債務は、本件地代等債務全部の内、被告住金の本件地上権の持分の割合の合計である五二万三一二四分の一万三九一一にとどまる。

(三) 弁済及び供託

被告住金は、本件地上権についての地代(敷金の増額変更分を含む。)はライベックスを通じて原告に支払うとのライベックスとの間の合意に基づき、平成三年一月から九月にかけて、翌平成四年一月から九月までの地代各月金一六万六二〇八円合計金一四九万五八七二円をライベックスに対して支払った。

ところが、ライベックスが、原告に対する右地代の支払いを怠り、しかも被告住金からの右(二)の割合により分割した本件地代等債務の支払いの申し入れについて、原告はこれを拒絶した。そこで、被告住金は、平成五年七月五日、本件当初地代金一億〇七七一万四〇〇〇円並びに本件増額地代及び本件増額敷金各金二〇六六万六〇〇〇円に、被告住金が本件地上権について占める持分割合である五二万三一二四分の一万三九一一を各乗じた金二八六万四三四八円及び各金五四万九五五三円を原告のために供託した(以下あわせて「本件供託」という。)。

したがって、被告住金の原告に対する本件地代等債務は供託によりすべて消滅している。

3  被告甲野及び同乙山の主張

(一) 本件地代等債務の可分性

本件地代等債務は、性質上可分債務である。本件区分所有者は、それぞれその本件区分建物部分のみを占有し、それに伴う限度で本件地上権を利用しているのであって、本件地上権を全体的に利用しているのではない。

(二) 可分性の承認(不可分性の特約の不存在)

原告及びライベックスとも、本件地上権設定時に本件地代等債務を不可分債務とする意思はなかった。原告は、ライベックスに対し本件地上権を設定する際に、ライベックスが本件土地上にホテルを建設して本件区分建物部分を本件地上権持分と共に分譲することを承知していた。

4  被告乙山の3以外の主張

仮に原告が不可分債務としての本件地代等債務の支払請求権を有するとしても、原告は、被告乙山に対し、平成六年八月五日付の催告書により本件地代等債務について区分所有持分比率による請求を行い、右不可分債務の請求権を放棄した。

第三  争点に対する判断

一  本件地代等債務の性質について

1  一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、建物の区分所有等に関する法律(昭和三七年法律第六九号。以下「区分所有法」という。)に定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる(同法一条)。そして、区分所有建物部分(以下「専有部分」ともいう。)を所有するための建物の敷地に関する権利である敷地利用権は、原則として専有部分と分離して処分することができず、敷地利用権の割合は、原則として専有部分の床面積の割合による(昭和五八年法律第五一号による改正後の同法二二条、二条三項・六項。なお、以下、改正前の同法は「旧区分所有法」という。)。また、専有部分は昭和五八年以前から独立の登記の対象とされており(不動産登記法九一条二項)、敷地利用権も昭和五八年法律第五一号による法律改正後は登記の対象とされている(右改正後の不動産登記法九一条二項四号)。

したがって、区分所有の建物の敷地利用権が地上権であるときには、専有部分の所有者は、専有部分に対応する地上権の割合的持分を有し、建物についての専有部分と敷地についての地上権の割合的持分とを一体的な財産権として管理処分せざるを得ない。そして、敷地利用権としての地上権の割合的持分を取得するためにその対価として地代を支払う定めをする必要が生じるときがあるが、右の場合地代を支払うべき理由が地上権の割合的持分を取得することにある以上、特別の約束がない限り、その地代は、地上権全体の設定の対価ではなく、地上権の持分割合の設定の対価となるというべきであり、このことは、事柄の性質上当然のことといわなければならない。そして、そのような地上権の割合的持分が区分所有建物の専有部分と共に譲渡されるときも、特段の事情のない限り、その譲渡後の地代は、地上権の持分割合の設定の対価となるというべきである。

2  そこで、これを本件についてみることとする。

(一) 本件地上権が設定されたのは、前示のとおり昭和五八年一〇月のことである。したがって、昭和五九年一月一日施行の昭和五八年法律第五一号による改正後の区分所有法の適用はなく、旧区分所有法が適用される状況にあったものである。ところで、甲一によれば、本件地上権の設定当時本件土地には宴会場と三五の居室からなる二階建ての建物(以下「旧建物」という。)が存在し、本件土地と右旧建物を所有していた原告がライベックス(当時の商号は城山産業株式会社)に旧建物を売却し、本件土地に本件地上権を設定したことが認められる。右の各部屋が独立したものか定かではないが、仮にそれが肯定されるなら、旧区分所有法の適用が問題となってくる。

(二) その点を措くとして、次に昭和六一年一二月ころに、ライベックスにより本件建物が建築されたことは、前示のとおりである。そして、前示の事実及び乙丁一・六・七、丙六の一・二によれば、本件建物は、区分した構造を有し、区分所有法に基づく区分所有の登記(ただし、建築当初は、本件建物の全体についてライベックスではなく訴外伊藤萬不動産販売株式会社が所有名義人として登記された。)がされ、区分所有法に従って本件建物の専有部分と本件地上権の割合的持分がライベックスから被告らに譲渡されたこと、被告らに対して本件区分建物部分及び本件地上権持分を譲渡するときに、ライベックスは、地代の額、増減額等については、ライベックスと原告との間において昭和五八年一〇月の本件地上権設定時点に取り決めた内容に沿わせるように譲受人と合意し、地代の支払いについても、地上権者がライベックスに地代を預託し、ライベックスが土地所有者に支払う方法による旨を譲受人と合意したこと、さらに昭和五八年法律第五一号による改正後の区分所有法二条六項及び不動産登記法九一条二項四号に基づき、本件建物については、区分所有法所定の敷地利用権及びその割合的権利として本件地上権及び本件地上権持分が登記されていることが認められる。

(三) 右(二)のとおりの外形的な事実からすると、まず、昭和六一年一二月ころに本件建物を建築した際、ライベックスは、既に昭和五八年一〇月に取得していた本件地上権につき、これを区分所有建物である本件建物の敷地利用権として流用的に利用する旨(旧建物が区分所有の建物の場合)又は内容を区分所有目的のものに変更する旨(旧建物が区分所有の建物でない場合)を本件土地の所有者の原告と少なくとも黙示的に合意したか、あるいはライベックスがそのように扱うことを原告が予め承認していたか、又は黙示的に承認したものということができる。そして、これにより、区分所有建物としての本件建物につき、区分所有法二二条一項に基づきその敷地の利用権として分離処分の禁止される本件地上権の割合的持分が設定されたということができる。敷地について地上権等の利用権を有する者がその上に区分所有建物を新築してその専有部分の全部を原始的に取得しただけの段階においても既に右のように解されるのである(同条三項)。というのは、構造上区分され独立した利用が可能な建物部分を有する区分所有建物については、専有部分毎の譲渡が予定され、その現実的実現を確保するために敷地利用権の分離禁止が必要であり、かつそうすることにより格別の不合理が生じないからである。

したがって、右説示の下で(二)の事実を見ると、ライベックスは、被告らに対し、別紙目録(二)記載の本件区分建物部分を譲渡し、併せて区分所有法上の敷地利用権たる同目録(二)記載の本件地上権持分を譲渡したものということができる。そして、1のとおりの説示を前提とすれば、被告らがそれぞれ別紙目録(二)記載の本件地上権持分を取得し保有するために原告に支払うべき地代は、右持分に対応する金額であって、本件地上権全体の対価であるとは認められない。

そうすると、最初一人しか権利者のなかった地上権が、多数の者の準共有となることによって、地主の地代回収が困難になることが明らかである。しかしながら、前記のとおり、本件建物については、当初から地上権の一部譲渡が予定されているものであること、及び、持分割合の小さな者も含めて、各区分所有者に全体の地代についての債務を負わせることが公平に欠けると思われることからして、地代回収に要する右の程度の不利益は、地主としては受忍すべきものといわなければならない。

なお、本件の地上権設定契約書(甲一)並びに区分所有建物売買契約書及び同賃貸借契約書に添付された「地上権の承継等に関する確認書」(乙一)によれば、ライベックスが、本件区分所有者から地代相当額を代理受領して、一括して原告に支払うようにされているが、右に述べた原告の不利益は、右の契約により十分に償われているものというべきである。

(四) そして、被告らが原告に支払うべき地代を本件地上権全体の対価とする旨を当事者が約束した等の特段の事情もうかがわれない。

なお、ライベックスは、当初からオーナーズマンション事業を営む会社として設立されており、原告としては、その主張とは反対に、本件建物の建築に伴い本件地上権が一部譲渡されることは十分に予想できたことというべきである(乙五)。

右のとおり、本件では、本件地代等債務を不可分債務とする合意があったとの立証がない以上、本件地代等債務は可分債務と解され、被告らは本件地上権についての各持分割合でしかその支払義務を負わない。

なお、原告が引用する判例(大審院大正一一年一一月二四日判決・民集一巻六七〇頁)は、不可分の一個の建物の所有のための賃借権を相続人が共同相続したため賃借権の準共有状態を生じたという事案に関するものであって、地上権設定の当初から、多数の相手方に対する地上権の一部譲渡が予定され、かつ、その地上権の持分が、独立して使用収益の対象となる区分所有建物の従物となっている本件とは、事案を異にするものである。

二  被告甲野及び被告乙山の債務額について

1  被告甲野の債務

乙六によれば、被告甲野の本件区分建物部分及び本件地上権持分の割合は、五二万三一二四分の一六四六であることが認められる。したがって、被告甲野の原告に対する本件地代等債務は、本件当初地代、本件増額地代及び本件増額敷金の各五二万三一二四分の一六四六である金三三万八九二〇円、金六万五〇二五円及び同額であり、右合計は金四六万八九七〇円である。

そうすると、被告甲野は、本件地上権全体についての本件当初地代、本件増額地代及び本件増額敷金の合計額(本件地代等債務)から訴外株式会社ぱりからの支払分(弁論の全趣旨によれば、その充当関係について、右会社と原告との間に争いがあるとは認められないので、原告主張の充当内容に従うこととする。)を控除した金額並びにこれに対する平成四年七月一日からの遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求(第二の二1(三)(四))金額の範囲内である右金額及びこれに対する約定の遅延損害金の支払義務があるというべきである。

2  被告乙山の債務

同様に、乙七によれば、被告乙山の本件区分建物部分及び本件地上権持分の割合は、五二万三一二四分の二四八四であると認められる。したがって、被告乙山の原告に対する本件地代等債務は、本件当初地代、本件増額地代及び本件増額敷金の各五二万三一二四分の二四八四である金五一万一四六八円、金九万八一三〇円及び同額であり、右合計は金七〇万七七二八円である。

そして、1後段と同様に、被告乙山も右金額とこれに対する平成四年七月一日からの約定の遅延損害金の支払義務があるというべきである。

三  被告住金の債務の存否について

1  被告住金の弁済の有無

証拠によれば、被告住金主張のとおり被告住金がライベックスに対し地代の趣旨で金員を交付した事実が認められる(丙七の一から九)。

右の金員交付は、ライベックスを通じて地代を支払うという合意に基づくものであるが、右合意は、原告とライベックスとの間のみならず、ライベックスと本件区分所有者との間においてもなされており、かつ、本件区分所有者は、地上権の承継に関する契約書により、ライベックスが原告の意向を受けて本件区分所有者から地代を収納して原告に支払う仕組みとなっていることを理解できるようになっている(甲一、乙二)。したがって、両合意を通じて、原告と本件区分所有者との間においても、本件地代等債務の支払方法が右のとおりである旨が合意されたものと評価するのが相当である。したがって、原告からすれば、ライベックスから地代の支払いを受けることにより本件区分所有者から地代の支払いを受けたこととなり、各区分所有者からすれば、ライベックスに地代を支払うことにより、原告に対する地代を支払うことになり、原告に対する地代の支払義務を免れるという関係になる。そうすると、本件区分所有者がライベックスに地代等相当の金員を支払った場合には、それは、原告に対する地代等の弁済の効力を有するというべきである。(なお、ライベックスが倒産したような場合には、本来の姿に戻り、地上権の割合的持分を譲り受けた被告住金はその設定者である原告に対し、直接譲受持分に対応する割合的地代を支払うべき債務を承継することになる。本件の請求はこのようなものとして有効である。)

ところで、被告住金は、平成三年一月から平成三年九月まで、合計金一四九万五八七二円(一か月当たり金一六万六二〇八円)を本件当初地代の自己の負担割合分としてライベックスに支払った事実を認めることができる(丙七)。この金額は、被告住金が本来支払うべき地代の約七〇パーセントである(甲四、丙六の一・二によれば、被告住金が支払うべき地代は年額金二八六万四三四八円(なお後記3参照)、月額にして金二三万八六九六円である。)が、その限度で被告住金は原告に対する地代の支払債務を免れるといわなければならない。

2  本件供託

また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成四年八月四日付け書面(甲六)により、被告住金に対して、地代の請求を行い、被告住金から分割債務として計算した地代を支払う旨の申し出を受けたのに対して、その受領を予め拒否したこと(原告はこの事実を明らかに争わない。)、そのため、被告住金は、平成五年七月五日、本件当初地代(平成三年一二月末日支払分)のうち同被告の持分に対応する分の金二八六万四三四八円を大阪法務局に供託したこと(丙八の一)、また、被告住金は、右同日、本件増額地代及び本件増額敷金(平成四年六月末日支払分)のうち同被告の持分に対応する分の各金五四万九五五三円、合計一〇九万九一〇六円を、大阪法務局に供託したこと(丙八の二)、以上の各事実を認めることができる。

右の事実によれば、右の供託(本件供託)は、供託原因のある有効な供託ということができる。

3  被告住金の債務

丙六の一・二によれば、被告住金の本件区分建物部分及び本件地上権持分の割合は、五二万三一二四分の一万三九一一であることが認められる。したがって、右1及び2の弁済と供託による債務の消滅がなければ、被告住金の原告に対する本件地代等債務は、本件当初地代、本件増額地代及び本件増額敷金の各五二万三一二四分の三九一一である金二八六万四三四八円、金五四万九五五三円及び同額であり、右合計は、金三九六万三四五四円である。

ところで、前記1及び2のとおり、被告住金は、本件当初地代(平成三年一二月末日支払期日分)のうち金一四九万五八七二円については支払済みであり、残余の金一三六万八四七六円については平成五年七月五日の供託により、その債務を免れたといわなければならない。なお、右金一三六万八四七六円についてライベックスが原告に対して支払いをしていないとの事実を被告住金において知ってから対応を決断するまでの期間は、支払方法の変更を検討するものであり、債務不履行責任を問うのは合理性を欠く。そして、被告住金は程なく供託をしているので、右期間の遅延損害金債務は発生しないと解する。同様に本件増額地代及び本件増額敷金支払債務は供託により消滅し、さらにこれらについての支払いは遅れたものの、その期間の損害金支払債務は生じないと解される。

以上によれば、原告の被告住金に対する請求は理由がない。

四  結び

以上によれば、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから主文のとおりこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用は民事訴訟法九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡光民雄 裁判官松本清隆 裁判官平出喜一)

別紙目録(一)(二)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例